岐阜薬科大学

概要

酸化ストレスは、活性酸素(ROS)による生体分子の酸化修飾を介して様々な細胞内及び生体反応を制御することが知られています。酸化ストレスはそれ自体が起点となって、周辺細胞のがん化や老化などを引き起こすことが知られていますが、生体機能の維持にも重要な役割を果たすことが報告されています。こういった酸化ストレスの生体内での働きは反応起点となる場所や濃度によって綿密に制御されているとされていますが、その詳細については明らかになっていません。

そこで、当研究室では、このような酸化ストレスによる細胞内や細胞間の変化をより詳細に解析するためのケミカルツールの開発をめざし、光照射によって酸化ストレス反応を惹起できるケージド化合物BhcTBHPを報告しました。BhcTBHPは光照射によって、酸化ストレス誘導剤であるペルオキシドTBHPを放出することが可能になります。ペルオキシド検出色素で評価した図1aのように、光照射わずか5分でBhcTBHPから定量的にTBHPが放出することができました。次に生細胞内でも同様にペルオキシドを発生させられるかをペルオキシドに反応する蛍光色素を用いてイメージングしました。図2aからもわかるように細胞内でもTBHPが発生していることがわかります (図1b)。

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1 (a) 本研究で開発したBhcTBHPから放出される光照射時間によるTBHP放出量と (b)それを用いた細胞実験

さらに、ROSの主な生成場所で様々な生理現象の反応点とされるミトコンドリアを標的としたMitoTBHPについても別途合成し、その機能について評価しました。ミトコンドリア膜電位(MMP)測定プローブJC-1を用いて細胞イメージングを行ったところ、MMPの低下が認められました(2a)。一方で、同様の濃度のTBHPで細胞を処理してもMMPの変化はみられませんでした(2b)

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2 ケージド化合物で引き起こされたMMP変化.(a) MitoTBHP, (b) AcBhcTBHP

酸化ストレス誘導剤を用いた従来の方法では、作用させる細胞小器官を選ぶことは困難でした。今回のケージド化合物の戦略を用いることで、酸化ストレスが関与する生体機能のより詳細な解明が可能になり、強力なケミカルツールとして病態解明などに貢献することが期待できます。

本研究成果は、岐阜薬科薬化学研究室の辻美恵子助教、平良遥乃氏(365体育投注_365体育app-直播*平台学生(当時))、青木達也氏(365体育投注_365体育app-直播*平台学生(当時))、平山祐准教授、永澤秀子教授、岐阜大学工365体育投注_365体育app-直播*平台宇田川太郎准教授、との共同研究であり、イギリス王立化学会により出版される「Chemical Communication」に公開されました。

本研究成果のポイント

細胞内で使用できるペルオキシドケージド化合物に成功した世界初である。本ケージド化合物は、酸化ストレスと生理活性のつながりをより詳細に評価すためのケミカルツールとなることが期待できる。

論文情報

研究室HP

薬化学研究室:?https://yakka-gifu-pu.jp/